「うるさいなぁ触らないでよ」


私が、まるでヒステリックでも起こしたかのように声を上げると、彼は困ったように笑顔を浮かべた。(実際困っているんだろうけど)彼はまだ慣れていないらしい。もう私がヒステリックを起こすのなんて、数え切れないくらいに経験しているはずなのに。


「…また切ったの?」

「関係ないでしょ」

「手当てしなきゃだめだよ」


彼は一方的に話しかけてから血がどばどばと流れる私の手首を握った。


「触らないで!何度言えばわかるの?」


そう言って思い切り手を振り払うと、真っ白な彼の服に赤い斑点がついた。あぁ、また彼の服をダメにしてしまった。これで何着目になるだろうか。けれど彼は血がついたことなんか気にしないように、黙々と私の腕に包帯を巻いていった。彼によって包帯が巻かれた私の腕は、今回だけじゃない沢山の傷が生々しく残っていた。


「もうやめなよ…、苦しいだけだよ」


彼が本当に苦しそうな悲しそうな顔で言ったから、私は心臓の辺りが少しだけ苦しくなった。でもやっぱり、私は自分の行動を止めることが出来ないから、心の中で小さく彼に謝ってから、直ぐに「あなたに私のなにがわかるの!?」と叫び返して、大きく手を振りあげた。私の手は勢いよく彼の頬に当たった。ぱしん、と乾いた音が響いた。私の爪が当たったのか彼の頬からは血が流れた。私とお揃いの、真っ赤な血。

彼は特に何も反応を示さなかった。振り上げられる手を反射的によけようともしなかったし、流れる血を拭おうともしない。顔も痛いとか、厭だとか、そんな表情一切見せずに、無表情な顔に私の叩いた頬だけが赤くはれ上がっていた。

私は近くにあった灰皿を手にとって、彼の頭目掛けて投げつけた。がつ、と鈍い音がした。灰皿は転がって、絨毯からフローリングの上にいった。彼は少しだけ痛みに顔を歪めた。よかった、今度は反応してくれた。嬉しくなった私は、転がった灰皿を追いかけて四つんばいでフローリングの上に行く。灰皿を掴んで彼の元へ戻る。今度は投げつけるなんて真似をしないで、しっかりと手に握ったまま何度も何度も彼の後頭部めがけて殴りつけた。がつんがつんと音が鳴る。透明なガラスの灰皿に、段々と血がついてきた。

ふと手を止めて彼の反応を見ると、彼はなんの反応もせずにうつ伏せに倒れた。息はしてたから死んでいないみたいだった。私はほっと胸を撫で下ろす。本当によかった。彼が死んでしまったら私は生きていけない。どうやら彼は、強い衝撃で気を失ってしまったんだろう。大丈夫、前にもこういうことはあった。傷は浅い。起きたらいつも通りの彼なんだから。

私は寝室から掛け布団を持ってきて、寝ている彼に掛けてあげた。(彼の寝顔は可愛かった。もちろん普段の顔も可愛いけれど)それから私は静かになった部屋で、さっき彼が巻いてくれた包帯を解いて傷をみる。血はまだ止まっていなかった。





私は自分を傷つける行為を止めない。だって私が自分を傷つける度に、あなたは飽きもせず私を心配してくれるでしょう?私の為に苦しんでくれるでしょう?

やめなよ、そう言って心配してくれるあなたを、私は酷い言葉で傷つける。だって私の言葉で、傷ついてくれるでしょう?悲しんでくれるでしょう?

もっと、もっと。その顔を歪めて。痛みでも、悲しみでも、苦しみでも、もっと。私の為に顔を歪めて。

後頭部と頬から血を流す彼。うつ伏せに倒れている彼。私はまだ手に持っていた灰皿を放り投げて、うつ伏せの彼を仰向けにひっくり返した。彼の頬に両手を添えて、顔を近づける。頬から流れる血を舐める。私が大好きな彼の味。そのまま唇を斜めに下げていって、彼の唇にくっつけた。大好き。私にはあなた以外の人なんかいらない。

ごめんなさい、これも一つの愛情だから。



歪んだ愛情を注ぐ
(直す気なんてさらさらないわ)



(終わり!)(考えてた内容とはあうけどなぁ)(なんでこうなるかね)






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