優しさ凶器だ。わたしはその美しく透き通った凶器に鈍く刺された。
わたしの身体はじわじわと痛みに侵食されて赤は止め処なく流れる。どれだけたっても傷はふさがることなく、腫れ上がったそこがずきずきと痛む。凶器は時間が経つにつれ深く奥へと刺さっていく。痛い。いたい。これは全部貴方のせいよ。ねぇ、貴方がやったことなの。やがてわたしは自分で作った赤い水溜りの中へ身を沈めるでしょう。優しさは凶器だ。わたしはその美しく透き通った凶器に鈍く刺された。

彼女はそう言って、僕が生きてきていままで一度も見たことがないそれはそれは綺麗な笑顔を僕に向けた。そしてそれきり姿を消してしまった。

僕は息を思い切り吸い込む。澄んだ朝の空気は体中を一掃したかのような気分にさせるけれど、胸の中心にかかった靄は残ったままだった。どこを探しても彼女はいない。家も、学校も、図書館も、コンビニも、公園も、ビデオ屋も。そして彼女の行方を知っている者も誰一人いなかった。つまるところ、三日たった今でも未だに彼女は行方不明だった。

貴方がいけないの。何もする気がないのなら何もしなければよかったのに。ねぇ、貴方どうして優しくなんてしたの。いつだって優しくすることが正しいわけじゃないのに。それとも貴方のくれる優しさに溺れたわたしがいけなかったのかしら。そうしたらこれは至極当然の結果なのかもしれないわ。貴方のくれる優しさを受け取るべきじゃなかった。優しさは使い方次第で時には暴力にも凶器にもなり得るの、それをわたしも貴方もきちんと理解していなかったのね。

彼女はそうも言っていた。そのときの彼女は一体どんな表情を浮かべていただろう?
笑っていたっけ、それとも泣いていた?そのとき僕のポケットに入れておいた携帯電話が震えた。少しだけ驚いてから、慌てて取り出して、耳に当てる。それは、彼女の行方を知らせるものだった。町外れの漁場で、彼女と同じ衣服を身につけた女性が引き上げられたらしい。携帯をポケットに仕舞うと背筋にぶるっと悪寒が走った。どうやら、僕は彼女を殺してしまったらしい。



やさしさで
(愛と優しさが紙一重というのならどうして貴方の優しさは愛ではないの?)



(終わり!)2009/01/25



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