ドアをあけるとリビングには小さな花畑が広がっていた。

「何をやっているの?」

ソファーに座って鼻歌を歌う彼女に問いかけると「花束をもらったの」と答えられた。なるほどテーブルの上の花畑はそういうことだったのかと納得した俺は、ソファーの背もたれに手をかけて彼女の横顔を眺める。どうやら彼女はごきげんのようだった。そしてまた次の疑問が湧き上がる。

「どうして花束をバラバラにしているの?」

テーブルの上には一輪ずつにバラされた花たちが無造作に散らばっていた。床にはクリーム色の薄い布と、淡いピンク色のリボンが転がされている。どうやら花束を包んでいたものだろう。

「花占いをしようと思ったの」

そういって、彼女はテーブルの上から一輪のピンク色の花を手にとって、綺麗な声で歌い始めた。

「ひとつ愛してる、ふたつ愛してる、みっつ本気で愛してる、よっつ心から愛してる、いつつ私捨てる、むっつ彼が愛してる、ななつ彼女が愛してる、やっつ二人とも愛してる、ここのつ彼がやってくる、とう彼とどまる、」

そこまで歌うと彼女は急に歌うのをやめ、俺のほうをじっと見詰めて静かに言った。「…この歌はね、じゅういち彼求愛する、じゅうに彼結婚するって続くのだけど、この花はとうで終わりみたい」彼女は無表情で、特に嬉しそうでも悲しそうでもなかった。視線は既に俺から離れて、手に握っている花びらが一枚もない花に注がれている。「そう。とうは一体なんだったっけ?」俺が尋ねると彼女は暫く黙って、それから、

「とう、彼とどまる」
「それはつまり?」
「あなたが浮気してる」

言葉に詰まった俺にゆっくりと視線が戻される。そして彼女はふわりと笑った。ちょうど、テーブルの上に散らばっている花たちのような、可愛らしい笑顔。

「ごめんなさい、悪い冗談よ。まさか、そんなことあるわけないもの。ねぇ?」
「あ、ああ…。そんなことあるわけないよ」

彼女の声になにかしらのものを感じ取った俺は、結局その日の夜口にしようと考えていた別れ話を切り出すことなく、それから一ヶ月、未だに彼女と俺は続いている。



(終わり!)(これ、意味ちがうんですごめんなさい)2009/01/25



inserted by FC2 system