ふわっと、春の風が吹いた。生暖かい風にのって、花の香りがした。忘れることのない、彼女の香り。あぁ、また春がきたんだ。


別れ方は最悪だった。いや、人によっては「綺麗じゃないか」という偏屈な考えをもった人もいるかもしれない。けれど、僕は他の人になんと言われようと、たとえ世界が滅びようとこの考えをかえようとは思わない。僕にとっては最悪でしかなかったんだ。死別、という最悪な結末。

後悔の連続だった。僕が高熱を出したりなんかしなければ、彼女は見舞いにこなかったのに。僕が無理にでも彼女を送っていれば、彼女は、いなくなったりしなかったのに。どうしてどうしてどうして。彼女はいなくなってしまった。

桜の花が咲いている。満開だ。綺麗だ。誰かの家族がお花見をしている。楽しそうだ、と思った。そういえば、彼女と一緒に手を繋いで桜をみたことがあった。楽しそうに笑う家族を見ながら「私たちも将来あんな風になれたらいいね」と、そう言って、あの時の彼女はにっこりと笑った。

彼女がいなくなって十年が経った。未だに僕は彼女の死をはっきりと認識できない。忘れることなんて出来ないし、何より忘れようとも思わない。彼女がいて、僕がいて、世界はそれで十分だった。


ふわっと、春の風が吹いた。生暖かい風にのって、花の香りがした。忘れることのない、彼女の香り。めぐるめく、春の季節。



(終わり!)(初めは死別ネタじゃなかった)








inserted by FC2 system