どうしてこんなことになっているのでしょうか。

夢なんて、覚めないままでよかったのに。




あれは、暗い夜道を歩いていた時のことでした。自宅への近道をしようと、路地裏へ入りました。路地裏は暗くて、寒くて、何も見えませんでした。私は少しだけ恐くなって、歩調を早めて歩きました。

出口まで後少しというところで、前に人がいるのに気がつきました。その人は黒い帽子を被っていて、黒いコートを羽織っていて、ともかく全身黒づくめでした。目深に被った帽子のせいで、顔は見えませんでした。私はその人が怖く思えて、足速にその人の前を通り過ぎようとしました。

その時でした。突然、その人に腕を掴まれました。私は下を向いていたので、その人の黒いブーツしか見えませんでした。驚いて顔を上げると、掴まれている腕の、少し上の部分から血が流れていました。どうやらその人が手に持っているナイフで切りつけられたみたいでした。

私は声を上げて走りました。路地裏を抜けて、ひたすら走りました。その人が追ってくる気配はありませんでした。私は勢いよくドアを開けて、家の中へ駆け込みました。

家の中には誰もいる気配がしませんでした。普段ならば、お母さんが台所で夜ご飯を作っている時間でした。私は不思議に思ってリビングへと続くドアを開けました。

リビングに入ってすぐに、赤い水たまりが目に入りました。白い壁や、淡いベージュのカーテンには、赤い斑点が飛び散っていました。私は我にかえってから、躊躇いがちにリビングの中心へと足を進めました。

テーブルの下ではお母さんが血だらけで倒れていました。私は言葉を失いました。お兄ちゃんもでした。ソファーの上でぐったりと目をつぶっていました。腕と足が一本ずつありませんでした。しかし、テーブルの上には花瓶があり、そこにお兄ちゃんの腕と足がまるでお花の様に飾られていました。私はびっくりしました。これは夢だと思いました。



暫くしてから目を開けると、私はリビングの壁に寄り掛かって床に座っていました。周りには何もありませんでした。やっぱりさっきのは夢だったんだ、と思いました。私は立ち上がろうとしました。けれど足に力が入らず、ガクンと前につんのめるようにして転びました。床に両膝をぶつけました。けれど痛くはありませんでした。今度は頬っぺたをつねってみました。こっちも痛くありませんでした。もしかして、これが夢?と、そう思った時でした。

私はまたリビングで目覚め、目の前には血だらけのお母さんとお兄ちゃんがいました。


どうしてこんなことになっているのでしょうか。

夢なんて、覚めないままで良かったのに。



(終わり!)(なんか別のネタだった)





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