そりゃねーだろ、と訴えかけるような瞳で見つめてくる彼女をみて、俺は頭を抱えたくなる。おいおい、それはこっちの科白だろ?なんで突然 平手打ちされて、首絞められて、泣き出して、 俺が「もうやめよう。疲れた」ったら「酷い」って言葉が出てくるんだよ。おいおいおいおいそりゃねーだろ。俺酷いの?え、俺酷いの?平手打ちしたわけでもなし、首絞められたわけでもなし、むしろ平手打ちされて首絞められたのになんで俺が酷いことになってんの?え、なんで?女ってほんとわけわかんねえ。

俺は清潔感たっぷりの白い部屋の中で、同じく清潔感たっぷりのベッドの前に立って、そのベッドの上で静かに涙を流す彼女を見つめて、わざとらしく大きな溜息をついた。もちろんあてつけだ。大体さっきまでアニマル浜口もびっくりの大声で泣き叫んでたくせになんだ?ほんとなんだ?なんで急に静かになってんの?これじゃあまるで俺が泣かせてるみたいじゃねぇか。冗談じゃない。泣きたいのは俺の方なのに。

「ね、ぇ…」

かすれた声で呟き、彼女は俺の腕を掴もうと手を伸ばす。俺はその手を払って、強めの口調で「さわんな」と一言。やっと言えた。やっと言ってやったんだ。俺は、伸ばした手をそのままに硬直する彼女にむかって「このままじゃだめだ。おまえも俺も、どんどん悪くなってくだけだ。おまえも無駄に体力つかうし。俺も もう耐えられない」といった。
彼女は俺の言ったことが理解できないみたいで、というより理解したくないみたいで、目をぱちぱちさせて俺をみつめる。
でも俺は優しくないから、もう一度繰り返してあげたり、いまの言葉を「うそだよ。俺はおまえが大好きだ。いまのはちょっとした気の迷いだから気にするな」なんて訂正してあげたりなんかしない。もう俺は疲れた。これ以上となく疲れている。疲れきっている。きっと彼女も疲れてる。精神的にも肉体的にも、お互いにもうぼろぼろだ。俺たちは相性が悪かったんだよ。
一見よさそうに見えたけれど。相性ばつぐんに見えたけれど。そんなのは、ただの錯覚にしかすぎなくて。はまりそうだったパズルのピース。でも、はまりそうだったけど、はまらなかった。似ていたけれど、そのものじゃなかった。本物だったけれど、違ったのだ。俺も彼女も、きっと、お互い他にはまるピースがあるはずだ。もしくは、これから色々あって、所々ピースが削れて、彼女のピースと俺のピースがはまるかもしれない。そういうことも、あるかもしれない。でも、いまははまらない。二つのピースは、はまりそうで、はまらないのだ。

「もう帰るよ。ゆっくり休んで、はやく元気になりな」

それだけいって、俺は病室を立ち去る。最後に彼女のちらかした病室を片付けてから立ち去ろうかとも考えたのだが、いまの俺は病んでいた。精神的に、もう、限界まできている。これ以上彼女と一緒にいるのは辛かった。
一緒にいるのが嫌だという訳ではなくて、むしろ一緒にいたかったけれど、今だって一緒にいたいけれど、でも、一緒にいることの辛さに、耐えられなかったのだ。

廊下にでて、後ろ手で引き戸を閉めて、暫く立ち止まる。
いくら耳を済ませても、病室から音は聞こえてこない。彼女のことだから泣き叫んだり、するのかと思ったけれど。いつまで経っても、平穏をぶち壊す彼女の叫び声は聞こえてこなかった。きっと彼女も、泣き叫ぶ気力もないくらいに疲れて、疲れ果てているんだろう。大体、さっき思い切り泣き叫んだばかりだった気がするし。

俺は息を吐いて、脚を踏み出す。消毒の匂いのする、真っ白で温かみの感じられない廊下を歩いて、エレベータに乗って、途中、綺麗なお姉さんのナース服姿にみとれながらも、無事に外へでる。
消毒臭さからも、厳しそうな空気からも解放されて、俺はここ何年か味わったことのないような幸福感に包まれる。もしかしたら、それは彼女と離れたことが一番の原因かもしれないけれど、まぁ、そこは深くは考えないで。
いまはただ、彼女の病状回復と、俺の幸せを願って、



乾杯



(続く!)(なんか話ごっちゃでわけわからん)(きちんといけば次で種明かし)2008/03/17






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