貴女はいつも僕に命令ばかりした。
貴女はいつも僕に怒鳴った。
貴女はいつも僕を殴った。


貴女には命令しているつもりはないかもしれないけれど、僕が逆らえないのをわかっていて何でも、それこそ万引きだろうがカツアゲだろうが何でも、僕に頼むのは命令と一緒ではないのだろうか。

貴女には怒鳴っているつもりはないかもしれないけれど、鬼のような額に青筋を浮かべた形相で僕にむかって大声で色々な、否定の言葉を投げつけるのは、怒鳴っているのと一緒ではないのだろうか。

貴女には殴っているつもりはないかもしれないけれど、その細い腕や小さな手、テーブルにあるコップなどを僕にむかってぶつけるのは殴っているのと一緒ではないのだろうか。

なにより、対象となっているこの僕がそういう風に感じているのだから、貴女は僕に命令しているし貴女は僕に怒鳴っているし貴女は僕を殴っているのだ。そうなのだ。

僕は貴女に命令されているし貴女に怒鳴られているし貴女に殴られているしそれはもう散々だ。

貴女は知っているだろうか。命令される前の恐怖と、命令されたときの屈辱感と、命令を達成したときの空虚感を。

貴女は知っているだろうか。怒鳴られる前の畏れと、怒鳴られているときの反抗心と、怒鳴られたあとのやるせなさを。

貴女は知っているだろうか。殴られる前の畏怖と、殴られているときの痛みと、殴られたあとの喪失感を。


それはもう何年も何年も、当たり前のように繰り返されてきた日常。
変化なくひたすら繰り返されるだけの、日常。


けれど、僕は気が付いた。
変化のない日常の中で、一つだけ着実に確実に変化しているものがあるということを。
時間 と それによる僕の成長 が変化しているということに。

貴女は気付いたでしょうか。
いつの間にか僕の背は貴女の背を抜かしていました。
いつの間にか僕の手は貴女の手より大きくなっていました。
いつの間にか僕の力は貴女より強くなっていました。

抵抗さえすれば、反抗さえすれば、僕は貴女に逆らえるということに、貴女は気付いていましたか?


今日、僕はそれを実行に移しました。


お母さんは、信じられないような目つきで僕をみて、それから気を失いました。


手足を縛って、風呂場の浴槽に突っ込んでおきました。浴槽にはお母さん以外なにも入っていません。お湯はきちんと抜いておきました。まだ死なれたら困るからです。
それからあまりに叫び声が煩かったので、近くにあったシャワーの頭でお母さんの後頭部を思い切りなぐりつけました。
だからお母さんは気を失って 静かになりました。

これから、僕はこの家を出て行きます。
二度と戻る気はありません。



君のいる世界にさよならを
(お母さんお母さん、手荒な真似をしてすいません。僕は悪い息子ですね)



(終わり!)(あれ…初め恋人設定の切なめな話の予定だったのに…)2007/09/18














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